スペシャルティコーヒーとは
コーヒーは世界60か国以上で生産され、その総重量は1,017万トン(2021年時点)とも言われています。そのうち、わずか9.3~10%にあたる101.7万トン程度が高品質かつトレーサビリティーの明確なスペシャルティコーヒーとして流通しています。コロナ禍による働き方の変化や、ワークライフバランスの考え方などにより自宅や職場、プライベートな時間など様々な生活シーンで自分好みのコーヒーを楽しむ方が増えたことにより、スペシャルティコーヒーは再脚光を浴びています。まずはスペシャルティコーヒーという概念やワードが生まれた背景を日本のコーヒー文化の変遷と合わせてお伝えいたします。
1800年代後半に初めて日本では喫茶店の形態である店舗が出来ましたが、本格的に昭和レトロな純喫茶が注目されたのは戦後復興中の1940年代後半から1950年前半にかけてでした。個人経営のこだわりのオーナーが演出するレトロな空間と音楽、そしてナポリタンやピザトーストなどいわゆる喫茶軽食を楽しむ場所として日本のコーヒー文化の礎を築きあげました。また、1970年代には、缶コーヒーやインスタントコーヒーなどが開発され、それまで喫茶店という特別な空間で楽しまれていたコーヒーはより多くの人の生活と密接な関係に姿を変えていきました。
ペーパードリップやネルドリップ、サイフォンコーヒーなど、どこかノスタルジックな要素も多分に含んだ日本独自の喫茶店隆盛も一服感を迎えた1980年代後半には、海外大手チェーンによる新たなコーヒームーブメントが起きます。カフェラテやカプチーノなどエスプレッソマシンで作られるメニューと海外の開放的な店舗空間はそれまでの喫茶店の雰囲気とは一線を画し、ファッション性も相まって女性顧客という新たな顧客層開拓を実現しました。
2000年代初頭に米国で起きた3rd WAVEという動き。のちに日本でもムーブメントとなるこのワードや潮流は記憶に新しい方も多いのではないでしょうか?
よりコーヒーの品質にフォーカスされ、コーヒーの奥深さと同時に自分好みのコーヒーやブランドを探し求める本物志向の顧客が増え始めたターニングポイントとも言えます。
では、「スペシャルティコーヒー」という概念とワードはどのように生まれたのでしょうか?1978年のあるコーヒー国際会議にて米国のエルナ・クヌッセン女史が初めてこの言葉を使ったことが始まりで、その4年後に今の各国スペシャルティコーヒー協会の基盤ともなるSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)が発足しています。(SCAAは現在、ヨーロッパと統一されSCAとして活動しています。)
スペシャルティコーヒーの概念・ワードが生まれた背景には理由が存在します。それは、コーヒーを生産する側と消費する側の力関係が密接に関連します。今ではコーヒーは生産国内でも自国消費が活発になったことでその消費量は年々増加傾向にありますが、過去は消費国の大半は欧米や日本などが中心でした。いわゆる経済先進国である消費国側と、開発途上国が多くを占める生産国側の力関係は不均等であったため、コーヒーを安く買い叩くという悪しき構図が存在していました。この農園に対する行動は良質なコーヒーを生み出す必要性を無くし、のちに登場する清涼飲料の登場とも相まってコーヒーそのものの価値を下げることになりました。そうした流れに危機を感じ、取引に透明性を持たせ、農園へのフィードバック・サポートを行うことで持続性を持った良質なコーヒー作りを目指したのがスペシャルティコーヒーの始まりです。
スペシャルティコーヒーとその他のコーヒーの違いは何でしょうか。その違いは、コーヒーの『品質』に基準を設けている点です。
コーヒーを生産している国は、赤道から南北緯25°の地域に集中しています。この地域は、コーヒーベルトと呼ばれています。なぜこの地域に集中しているのか。それはコーヒーの生産に必要な標高による気温(昼夜の寒暖差)、雨量、土壌成分などがコーヒーの生産に適しているためです。
コーヒーを生産している国々には、それぞれコーヒー豆の輸出規格がありその基準に沿って取引されます。国ごとに輸出規格の基準は異なっています。規格の種類は主にコーヒー豆のサイズや生産地の標高によって分けられていますが、コーヒー豆の品質によっては分けられていません。一般的なコーヒーの場合、その国の基準に合っていればコーヒー豆の品質に関係なく基準の高い順に高値で取引されます。一方、一般的なコーヒーの取引とは異なり、スペシャルティコーヒーはコーヒー豆の品質そのものが評価基準となります。
カッピングシートと呼ばれる味覚評価シートをもとに評価し、100点満点中80店以上のスコアを獲得することが一つの基準となり、スペシャルティコーヒーとして流通します。各国で開催される品評会や仕入れた際に正しく評価できる技能者(カッパー)が評価を行います。
スペシャルティコーヒーがカップクオリティで評価されるのと同時にもう一つ非常に需要な要素があります。それは、「どの国の・どの地域の・どの農園がどのように生産したか」というトレーサビリティーが明確であるということです。農園主や地域はもちろん、コーヒーの品種や精製方法、収穫時期までの詳細履歴が辿ることが出来る、まさに生産者の顔が見えるコーヒーです。消費側も良質なコーヒーには透明性と公正な取引をすることで、生産者の生活環境をより良いものにすることで持続可能なコーヒーを作り続けていただくという相互協力のかたちこそがスペシャルティコーヒーの最も大切な理念でもあります。
そんな個性豊かで作り手の顔が見えるスペシャルティコーヒーをぜひ楽しんでいただき、自分の好きなコーヒーを見つけてみてください。
スペシャルティコーヒーの定義
スペシャルティコーヒーとは、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)により、以下のように定められています。
Specialty ピラミッド

- 消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
- 風味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。
- カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である。(From seed to cup)
- 具体的には、生産国においての栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること。
- そして、適切な輸送と保管により、劣化のない状態で焙煎されて、欠点豆の混入が見られない焙煎豆であること。
- さらに、適切な抽出がなされ、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現されることが求められる。
- 日本スペシャルティコーヒー協会は、生産国から消費国にいたるコーヒー産業全体の永続的発展に寄与するものとし、スペシャルティコーヒーの要件として、サステナビリティとトレーサビリティーの観念は重要なものと考える。
※日本スペシャルティコーヒー協会HPより抜粋